酸性雨で傷んでしまった麻ジャケット
 
ここにあるジャケットは
  表地 麻 100%、裏地 キュプラ のものです。
お客様がクリーニングに出された時には
このような状態にはなっていませんでした。

洗濯表示は『ドライクリーニング可水洗い不可』 ですから、
何らかのお申し出が無い限りはドライクリーニングを行います。

ジャケット

  クリーニング店でも石油系ドライクリーニングを行い
  プレスし包装してお返しするようにしてまして

  数日経ってお客様が受け取りに来られた時に確認すると
  全体が赤茶けたように変色していたらしいのです。
  クリーニング店では慌てて水に漬けたらしいのですが
  所々赤茶けていると同時に一部は破れていました。

  私どもで検査しましたところ
  変色部は紙のようになっており、容易に破れるような状態で
  裏地のキュプラも同様でした。

  植物性繊維(綿や麻)がこのように脆化するということは
  『』による影響が考えられますので
  定性試験を実施してみると
  水に浸した後にも係わらず、pHは4以下で硫酸反応も出ます!!

  このような結果から酸性雨に含まれる硫化物(硫酸)による
  繊維の脆化と判断しました。

 

 
 
 
右袖
後身頃
 
 

後身頃   左袖

 

右袖

 

 

酸性雨は森林の木々を枯らしたり、銅像を溶かしたりなどの問題があることは知られていますが
衣類に悪影響を与えることは意外と知られていません。

昨今は酸性物質が偏西風に乗って諸外国から飛来することもあるとの研究も発表されていますし
排気ガスや煤煙などにもNoX(ノックス:窒素酸化物)、SoX(ソックス:硫黄酸化物)などが含まれています。

これらが雨に混じると酸性雨になってしまいます。

酸性雨の定義は文英堂 『理解しやすい化学T・U』に判りやすく解説されていますので引用させていただきます。

酸性雨の定義

ペーハー

 

東京書籍 『ダイナミックワイド図説化学』にあった資料を使わせていただいて身近な物質のpH(ペーハー)を考えてみましょう。

身近な物質のpH

 

植物性繊維は酸に弱く、アルカリには比較的に強い性質を持っています。
逆に動物性繊維(毛や絹)は酸に強く、アルカリに弱い性質を有します。

それでも硫酸のような不揮発性強酸は、熱を加えることで燃え出し繊維をボロボロにすることも ・・・

バッテリー液のような硫酸の希釈液でも、ドライクリーニングによって水分が減り、濃硫酸となると
プレス時のスチームや乾燥時の熱で繊維をボロボロにすることも
またパイプ洗浄剤のような強アルカリがついた時なども水洗い(ウエットクリーニング)が必要となります。

   アルカリとは、アラビア語を語源としておりアル(al)は定冠詞、
   カリ(kali)は植物を焼いた灰の意味を表しており、
   酸と中和して塩を生ずる性質(塩基性)を持つものの総称をいうようになったそうです。

  身近なアルカリとしては、ナトリウム(Na)やカリ(K)のように石鹸や洗剤に使用されるアルカリ金属や
  カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)のようなアルカリ土類金属など、それぞれちょっと異なった性質もあるから
  皆さんもアレコレ調べてみませんか?

また染料が変化していることから、酸やアルカリの付着によって衣類の色が変化したり脱色する事例も増えています

簡単な実験としては、カレー粉を溶かしたものを綿の白い布に少し塗ってから洗濯し、塩素系漂白剤や
粉末の酸素系漂白剤、 パイプ洗浄剤の水溶液に漬けてみましょう。
カレー粉が赤っぽく変化することが確認できると思います。

赤っぽくなったカレー粉はお酢をたらすとまた元の黄色に戻ると思いますよ。
カレー粉の黄色を作っているのもターメリックという一種の染料ですからこんな変化が起こります。