ウエット・クリーニングに関してTVでも取り上げられましたが
皆さんが誤解されているような部分も見受けられます。

ウエット・クリーニングについて検証してみましたのでご覧ください。

TVでは容器に石油系ドライクリーニング溶剤と水をそれぞれ入れたものに、
トイレットペーパーをそれぞれ入れて攪拌したものを最初に画像として見せた後、

ジャケットの一部をほどいて胸ポケットの裏部分にトイレットペーパーを縫い付けたものを
実際のウエット・クリーニングを行っているお店に出して検証するという構成でした。

TVに出演されていた業者さんが見本として見せていたのは

小さなバケツに衣類を入れ押し洗いして
取り出した衣類を解いたところトイレットペーパーが溶けてなくなっているという画像です。

この画像を基準に他の3店が実際にウエット・クリーニングを行ったのかの検証がありました。
放送の数日前に私どもにも確認して欲しいということでビデオで結果を見せていただきまして
ビデオで見た限りで判る範囲で回答させていただきましたが、
TV出演されていた業者さんは『水洗いならトイレットペーパーは溶けるはず』ということで
ウエット・クリーニングはどの店もやっていないと自社のHPで発表されています。

ウエットクリーニングとは

本来はドライクリーニングすべき『水洗いで収縮や型崩れするような衣類』にドライクリーニングでは落とせないような水溶性汚れが残っている時に行われる『デリケートな水洗い』のことをウエットクリーニングと呼んでいます。

基本的にはドライクリーニングを行った後に中性洗剤を用い、常温から摂氏40度程度の温水で弱い機械力(揉みや叩き)を用いて洗浄されます。
また汚れの種類や程度によっては酸素系漂白剤が併用される場合もあります。

ドライクリーニングを先に実施することによって、油性汚れの除去や付着している汚れの油分をほとんど除去することで水洗いだけを行う場合のような強力な洗剤も必要としません。

ほとんどの場合には水に溶ける汚れを溶かし出すだけの弱い機械力で十分です。
もちろん、汚れによってはドライクリーニングとウエットクリーニングの両方を行っても除去できないものもあります。

繊維の種類や組み合わせ、染色などによりどこまでの機械力を加えることが出来るかは変化するので、機械力の基準を設定することが出来ないという難しさがあります。

 

 

はたしてトイレットペーパーはウエット・クリーニングによって簡単に溶けるのか?
私どもの研究所にて試験して見ましたのでご覧ください。

トイレットペーパー
当所で試験に使用したトイレットペーパー
  泉製紙(株)
 
実験その1
切り取った状態で水に浸けるとどうなるか?
トイレットペーパーを30cm切り取り、500ccの水の中に浸けてみました。
水に浸漬
10分ほど浸けましたが溶けません。
ただし少しは糊が溶けたのか、かなり塊状になっています。
 
実験その2

実験1で使用したものと同じトイレットペーパーを攪拌してみました。
TVで実験されていたものと同じような条件ですね。
かなりバラバラになるのがお判りいただけるでしょう。

水流を作るための回転子にトイレットペーパーが接触してバラバラになっています。
叩きの作用と同じような力が加わっているのですね。

 
実験その3
ウールモスリンにトイレットペーパーを挟み 縫い付けまして
家庭用中性洗剤を入れて家庭用洗濯機のドライマークコースより強く
10分間 攪拌してみました


検証_03

検証_04 検証_05

10分間攪拌した後に取り出し、乾燥機に入れて乾燥し、糸をはずしてトイレットペーパーがどのようになったかを確認してみました

使用した乾燥機と設定温度

乾燥機 設定温度

乾燥機内部

 

結果はこのようになりました

検証_06

検証_07

検証_08

 
まとめ
お判りいただけたでしょうか。
トイレットペーパーといえども、布地に縫い付けてあるものなら優しく洗えばそう破れるものではありません。
ただし、かなり縮んでいますので脱水やプレス時にある程度は破れることは考えられます。
溶けていないからウエットクリーニング(水洗い)をしていないと言うのは暴論でしょう。
逆にウールモスリンのような生地ですと水による影響を受けフェルト化や収縮を生じますから、
トイレットペーパーが溶けてしまう程の強い機械力(揉み作用や叩き作用)を加えることはかなり危険な行為と言えるでしょう。
水に浸ける前の繊維の拡大写真(100倍)
試験後の繊維の拡大写真(100倍)
検証_10
検証_09
上の二つの写真を並べて見ました。
水に浸かった繊維が膨潤し織目の隙間が少なくなっているのが判ると思います
検証_10

実際のウエットクリーニングをご紹介されているブログもありますのでご覧ください